国民投票法の可決・成立への抗議声明(07.05.26)
民主主義に背を向けた国民投票法の可決・成立に抗議する
去る5月14日,与党が数の力で成立させた国民投票法は,憲法96条の憲法改正条項を具体化するものとされている。しかし18項目もの付帯決議がついたことに示されるように,本法は多くの問題を抱えている。本法は国家の根幹を定める憲法の改正手続きを定めるものであり,他の法律にも増して国民の理解と納得を必要とする。しかしながら与党は,審議を通じて明らかになった数々の問題点を解決しないまま拙速に本法を成立させた。われわれは,今国会での国民投票法の拙速な可決・成立に強く抗議する。
大学という教育研究の場に身を置くわれわれは,本法103条の「教育者,公務員の地位利用による」運動参加を禁じるという規定をとくに容認できない。100条で「表現の自由,学問の自由及び政治活動の自由…を不当に侵害しないように留意しなければならない」と定め,付帯決議でも「意見表明の自由,学問の自由,教育の自由等を侵害することとならないよう特に慎重な運用を図るとともに,禁止される行為と許容される行為を明確化するなど,その基準と表現を検討すること」とわざわざ明記せざるをえなかったことは,この条項に問題があることを国会自身が認めていることに他ならない。それに,何が「地位利用」として禁止されるのかさえも明確に示されていない。本来,国民投票運動においては自由な議論が活発になされるべきであるのに,この規定は言論活動に萎縮効果を与え,ひいては民主主義を萎縮させる。また,国民投票を前にして,大学教員が講義等の教育活動のなかで9条をはじめとする現行憲法の意義を論じることができなくなるおそれがあり,この規定は学問の自由や表現の自由に対する侵害でもある。
また,最低投票率の規定がないことも看過できない。「低投票率により憲法改正の正当性に疑義が生じないよう,憲法審査会において本法施行までに最低投票率制度の意義・是非について検討を加えること」との付帯決議にもあるように,ことは改憲の正統性にかかわっている。低投票率であっても「有効投票の過半数」の賛成で改憲が成立するならば,有権者の1〜2割の賛成で改憲という事態も起こりうるのであり,民主主義は掘り崩される。このような深刻な問題を抱えているにもかかわらず,十分な審議をしないで本法を通したのは,将来に禍根を残す重大な誤りである。
同様に,本法2条に定められている実施までの期間が短すぎることも問題である。本法では,憲法を変えるという重大な問題に際して,発議から投票まで最短2カ月で済んでしまう。これでは広く国民に議論するための時間を与えることにならず,国民投票という形式のもとで実際には国民は軽んじられる。
このように,国民投票法は慎重な議論を要する問題を数多く抱えているにもかかわらず,中央公聴会の開催など国民的論議を尽くすこともなく,付帯決議という形で多くの問題点を先送りしたまま,きわめて短期間に本法を可決・成立させたことはまことに拙速と言わざるをえない。
確認しておこう。国民投票という民主主義を具体化するべき場面において,国民に議論する時間を与えないばかりか,国民相互の自由な議論を押さえ込み,いくら投票率が低くてもかまわないこととする。このように主権者=国民を軽視する姿勢が本法を貫いている。本法のねらいは,国民の認識が深まって批判の声が強まることのないうちに改憲を成立させるしくみづくりにある。
憲法改正手続法の国民投票に関する規定が施行されるのは公布から3年後であり,衆参両院に設置される憲法審査会はこの施行まで憲法改正案の提出・審査を行わないとされている。われわれは,この3年の間に,国民の意思を真に反映する国民投票の制度にするべく,本法を抜本的に見直すことを強く要請する。